桜切る馬鹿 梅切らぬ馬鹿

それってもしかして私のこと?

絶対安全剃刀

高野文子作品集 『絶対安全剃刀』  白泉社1982.1.19

以前の記事で『高橋源一郎飛ぶ教室 ーはじまりのことば』をご紹介しました。その本のp.160-162で高野文子さんの「田辺のつる」という短篇漫画が紹介されています。

高野文子?懐かしい響きがありました。うーん。たしか、短篇集を持っていたような。そうなんです。一作ごとに画風が変わるその漫画家高野文子さんの最初の短篇集を一冊だけ私は持っていたのです。それが、高野文子作品集『絶対安全剃刀』でした。その中に「田辺のつる」も掲載されていました。

田辺つるは、外見を幼女として描かれた認知症のおばあさんです。自分を客観視できなくなり幼女になっているつるおばあちゃんは、家族に雑に扱われていて、家族はいても一人ぼっちです。漫画は介護保険が始まるずっと前のものですが、介護施設がたくさんできた今でもつるおばあちゃんはいたるところにいそうです。生活の中のあるあるがこんな風に作品になることに驚きでした。おばあさんが幼女の姿に描かれていることも。しかも描写が細部に至るまで驚くほど丁寧。

高野文子さんは、テーマ、表現法、コマわり、構図などがどれも独特で新鮮な、ハイセンスな漫画家でした。懐かしい。私の本棚に、大友克洋さんの単行本『ハイウェイスター』『さよならにっぽん』『童夢』などと一緒に(本のサイズ縦✕横が同じサイズだから)ありました。彼らは、日本漫画界のニューウェーブと言われた方々でした。

その作品集『絶対安全剃刀』でインパクトが強かったのは、「田辺のつる」を除くと「ふとん」と「玄関」でした。「ふとん」は、絵もコマ割りも台詞も好きでした。ミニマルな漫画だと思います。実は、昨日の記事『壁を撮る人』のミニマルつながりでこの「ふとん」を思い出し、記事にすることにしました。「玄関」は、小学5年生のえみ子の一夏の物語です。その夏の経験で、少し変わった少女の心理描写が素敵な作品です。高野さんは、たくさんの漫画家の影響を受けているようで画風がコロコロかわり、実験的な作品を描いている様に思っていました。一冊しか持っていないので、その後の高野文子さんの作品を知らないのですが、描きたいものを描いていけたのかどうかは気になる漫画家さんでした。掲載する雑誌に合わせた画風にしていたのか、実験的だと感じていました。漫画でなければ表現できないことを漫画で表現している数少ない漫画家さんだと思っていました。

※この『絶対安全剃刀』の装丁は、南伸坊さんと小倉敏夫さんによるものらしいです。出版元の白泉社の都合らしいですが。